【コロッケのお話】

飽食のこの時代『好きな食べ物は?』と聞かれて、『コロッケ!』と答える人はあまりいないと思うけど、コロッケが好きな人って意外と多いのではないだろうか?

子供の頃にお肉屋さんで買って食べたアツアツのコロッケ、お母さんの手作りコロッケ、コロッケパンにカレーコロッケそしてクリームコロッケ・・・・・。最後のクリームコロッケは小洒落た西洋の匂いがするけど、それ以外のコロッケ達はとっても庶民的で、とっても身近でありながら、なぜかいつも懐かしさを感じさせる匂いを漂わせている。 

私が子供の頃、お菓子などを買い食いすることをあまり快く思っていなかったうちの母のポリシーも、コロッケの前ではいつも見事なまでに打ち崩されていた。コロッケを買い道沿いのベンチに私と姉を座らせると、子供の目から見てもテレ笑いとわかる笑みを浮かべながら、そしてまた怪しいほどに神妙な顔つきで『これはご飯といっしょだからいいの。』と、訳のわからない弁解をしたものだった・・・・。 

現在、ソウルに住んで6年目になる私の食生活は、全くの韓国式だ。たまに日本食やそれ以外の国籍を持つ料理も口にはするが、その回数すらやはり韓国式と言えるだろう。それでも時たま無性に食べたくなる日本の食べ物がある。そのうちの一つがコロッケだ。最近ソウルでは日本の食べ物が、以前に比べて随分あちこちで見掛けられるようになった。しかもそれらは『和食』というよりは『庶民の味』と呼ばれる味たちだ。でも、残念ながら私の大好きな日本のコロッケはまだ見たことがない。 

では、韓国にコロッケは無いのか?というとそれは違う。6年前の韓国にもコロッケはあった。『じゃあ韓国式のコロッケを食べれば?』と思われる方もいらっしゃるだろう。『韓国式の食生活を送っていると書いておきながら一体何が問題なの?』と・・・・・・。果たしてこれが大問題だったのだ。韓国のコロッケとはナント揚げパンのことなのだ。ピロシキの具にも似た何かよく判らない具が入った揚げパン。こいつが韓国のコロッケだったのだ。 

来韓して少したった頃、巷では『食べれないものは無いんじゃ無い?』と評判の私のお口が深刻なホームシックに罹ってしまい、韓国料理を決して受け入れようとしない時期があった。そんな私を不憫に思った韓国人の友人が『お姉さん、何か食べたいものある?』と聞いてくれた。彼女は日本で生活したことのあるオンナの子だった。わたしは僅かばかりの期待を込めて彼女に訴えた。『コロッケが食べたいの。でも、韓国には無いよね・・・・・・?』 

すると彼女は『あるよ!お姉さん韓国にもコロッケが。そして韓国のコロッケの方がもっと美味しい!!』と答えるや否や財布を手に表に出て行った。そうだここは韓国、カルビのお国。きっと美味しいビーフコロッケがあるに違いない!私は躍るような心で彼女の帰りを待った。そして得意そうな顔をして戻ってきた彼女の手からコロッケの袋を受けとった。嗚呼やっとコロッケが食べられる・・・・・・・・。 

受け取った袋の中を覗いた私は瞬時にその物体が何であるか把握できなかった。

『あれコロッケってこんなに丸まるしてたっけ?』『そうだよお姉さん。コロッケは丸いからね〜♪』『そりゃそうやけど・・・・・ってこれ、パンやんかあぁぁぁぁ!!』『違うよ!コロッケだよぉ』『・・・・・・・。』驚愕、ただただ驚愕だった。 

私はあまりの衝撃に言葉を失った。そしてそれと同時に食欲も失った。更に気力までもを失ってしまった。その夜私は寝込んでしまった。慣れない韓国生活の疲れが一気に押し寄せたのか、単に韓国コロッケの対面があまりにも衝撃的だったからかはよく分からないが、とにかく高熱を出して寝込んでしまったのだ。 

あれから6年経った今も私は韓国のコロッケがあまり好きになれない。決して味に不満がある訳ではないが、なんとなく避けて通ってきた。あの一件以来好感が持てなかったのだ。しかし、このコロッケを受け入れなくてはならない事態が起きつつある。それは私の最愛の同居人であるYそばん(旦那)が、このコロッケが大好きだからだ。もちろん、私が作る日本のコロッケも大好きで『우와진짜 맛있다!(わぁほんとにオイシイ!)と絶賛してくれる。そんな彼のポリシーの無さ、いやいや広い心を見習うべく私も韓国のコロッケに心を開くことにしたのだ。 

私が韓国のコロッケをコロッケの一種として受け入れられる日が来るのもそう遠くはない様に思う。そしてお母さんとの思い出みたいに楽しいコロッケの思い出を、今度は彼と作っていくのだ。

 


Sep.2003 written by ゆきえ